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奈良地方裁判所 昭和51年(行ウ)7号 判決 1982年5月14日

奈良市西大寺新池町一の一

七号事件原告

田出十一郎

奈良市南京終町四丁日二四九の三

八号事件原告

ワコー工業株式会社

右代表者代表取締役

田出十一郎

右両名訴訟代理人弁護士

相馬達雄

山本浩三

大橋武弘

奈良市登大路町八一番地

奈良合同庁舎内

奈良税務署長

七号八号事件被告

上田富雄

右指定代理人

小林敬

太田吉美

間井谷満男

阪本格司

中西昭

元屋実

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一七号事件

一  請求の趣旨

(一)  被告奈良税務署長が昭和四五年一月二九日付で原告田出の昭和四一年分及び同四二年分所得税について昭和四一年分総所得金額三八、六七四、四〇三円、所得税額二一、〇一六、三〇〇円、重加算税額六、三〇〇、六〇〇円及び昭和四二年分総所得金額八、九四一、六二八円、所得税額二、八三五、〇〇〇円、重加算税額七七七、六〇〇〇円と更正した課税処分を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三  請求原因

(一)  原告田出は昭和四一年分及び同四二年分所得税の確定申告書に次の通り納付税額を記載してそれぞれ法定期限までに申告した。

昭和四一年分 総所得の金額 四七二、五〇〇円

納付すべき税額 二、五一〇円

昭和四二年分 総所得の金額 三、三六五、〇〇〇円

納付すべき税額 二四二、四〇〇円

その後原告田出は昭和四二年六月五日に

昭和四一年分 総所得の金額 二、四八三、八四四円

納付すべき税額 四五二、一〇〇円

とする修正申告書を提出した。

(二)  被告奈良税務署長は、これに対し請求の趣旨記載の課税処分をなした。

(三)  よつて、原告田出は昭和四五年三月二五日国税不服審判所長に審査請求をしたのであるが、同所長は昭和五一年八月三一日付裁決書を以つて原処分の一部取消(昭和四一年分総所得金額三八、三九三、二五七円、所得税額二〇、八三三、七二〇円、重加算税額六、二四六、〇〇〇円、昭和四二年分総所得税額八、九一二、三五八円、所得税額三、三六二、八〇〇円、重加算税額七七三、一〇〇円)の裁決をし同年九月二二日通知した。

(四)  しかしながら右課税処分は、原告田出の個人事業を引継いで設立されたワコー工業株式会社(以下株式会社は(株)と略す)の設立第一期(自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日の事業年度)におけるたな卸高を資料として荒利益率を算定し、これにより原告田出の昭和四一年分及び昭和四二年分の事業所得の金額を推計しているが、この資料とされたワコー工業株式会社の設立第一期における期首たな卸高が過少に算定されたため、荒利益率及び事業所得の金額が過大となり原告田出の所得税額が違法にも過大に課税されたのである。

つぎに、日神貿易(株)に支払つた売上に対する割戻金売上金額からの減額否認も違法な処分であり、これらにもとづく重加算税の賦課決定処分も違法である。

(五)  よつて被告に対し、右課税処分の取消を求めるため本訴におよぶ。

四  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)ないし(三)は、認める。

(二)  同(四)、(五)は争う。

五  被告の主張

(一)  原告は、いわゆる白色申告者であるが、昭和四一年分及び同四二年分の所得税について、別表1の「確定申告」及び「修正申告」欄に各記載のとおりの確定申告書及び修正申告書(以下「納税申告書」という)を被告奈良税務署長にそれぞれ提出した。

被告は、原告の提出した右各年分の納税申告書に記載された、課税標準等が、その調査したところと異なり、また、右各納税申告書の提出が、いずれも、国税通則法第六八条第一項の規定(重加算税)に該当するものであつたので、原告に対し、別表1の「更正」欄に記載のとおりの更正処分(但し両年分共裁決により一部取消された後の額を示す。)及び重加算税の賦課決定処分をそれぞれしたものである。

(二)  原告田出の係争各年分の所得金額の計算内容は、以下述べるとおりである。

1、昭和四一年分

(1) 売上(収入)金額 九四、一七三、四六二円

(2) 売上原価(イ+ロ-ハ) 四二、七一七、〇八三円

イ 期首棚卸高 二、四七三、〇六八円

ロ 仕入金額 四二、二一一、八七三円

ハ 期末棚卸高 一、九六七、八五八円

(3) 一般経費 六、五三七、八五二円

内訳

イ 租税公課 一一、四七〇円

ロ 荷造運賃 二四三、五〇〇円

ハ 水道光熱費 二一九、五七六円

ニ 旅費交通費 二五三、二八四円

ホ 通信費 一二三、八九一円

ヘ 保険料 五四、七五五円

ト 修繕費 八五二、五五七円

チ 消耗工具 七九五、〇五〇円

リ 消耗品費 二〇、〇〇〇円

ヌ 支払手数料 一六一、一四七円

ル 燃料費 二三八、七一二円

オ 交際費 一、七七一、五六四円

ワ 事務用品費 三九、五〇〇円

カ 福利厚生費 三八九、六〇六円

ヨ 減価償却費 五四〇、一二一円

タ 不突合損 三三、三五六円

レ 雑費 七八九、六六三円

(4) 特別経費(イ+ロ) 五、八二三、五〇〇円

イ 給料 五、六〇〇、〇〇〇円

ロ 地代家賃 二二三、五〇〇円

(5) 雑収入 二、〇七〇円

(6) 差引金額((1)-(2)-(3)-(4)+(5)) 三九、〇九七、〇九七円

(7) 専従者控除 一四二、五〇〇円

(8) 事業所得金額((6)-(7)) 三八、九五四、五九七円

(9) 譲渡所得金額(譲渡損) 一七三、六二八円

(10) 雑所得金額 二八、〇七七円

(11) 総所得金額((8)-(9)+(10)) 三八、八〇九、〇四六円

2 昭和四二年分

(1) 売上(収入)金額 二〇、八八二、四九四円

(2) 売上原価(イ+ロ-ハ) 一〇、四五一、一六五円

イ 期首棚卸高 一、九六七、八五一円

ロ 仕入金額 八、四八三、三〇七円

ハ 期末棚卸高 〇円

(3) 一般経費 三、〇七五、七七九円

内訳

イ 租税公課 二、二四五、一〇〇円

ロ 荷造運賃 七三、六二五円

ハ 水道光熱費 四三、二二九円

ニ 旅費交通費 四二、二一六円

ホ 通信費 二三、三二四円

ヘ 修繕費 三五、七九〇円

ト 消耗工具 五七、七五〇円

チ 支払手数料 二五、六〇七円

リ 燃料費 五八、三一八円

ヌ 交際費 二八四、九七六円

ル 事務用品費 六、六〇〇円

オ 福利厚生費 六四、九三四円

ワ 減価償却費 一一八、四七一円

カ 雑費 三一、八三九円

(4) 特別経費(イ+ロ) 七五〇、〇〇〇円

イ 給料 七〇〇、〇〇〇円

ロ 地代家賃 五〇、〇〇〇円

(5) 事業所得金額((1)-(2)-(3)-(4)) 六、六〇五、五五〇円

(6) 給与所得金額 二、六六五、〇〇〇円

(7) 譲渡所得金額(譲渡損) 四九五、九六八円

(3) 売上原価 (四、二七一万七、〇八三円)

イ 期首棚卸高 (二四七万三、〇六八円)

期首棚卸高(昭和四一年一年一日現在)は、ワコー工業(株)の設立第一期の荒利益率を基にして算定したものである。

なお、計算根拠は別表2のとおりである。

ロ 仕入高 (四、二二一万一、八三七円)

<省略>

ハ 期末棚卸高 (一九六万七、八五八円)

期末棚卸高(昭和四一年一二月三一日現在)は、ワコー工業(株)の設立第一期の荒利益率を基にして算定したものである。

なお、計算根拠は別表2のとおりである。

2 昭和四二年分

(1) 売上高 (二、〇八八万二、四九四円)

<省略>

(8) 雑所得金額 二一五、四九六円

(9) 総所得金額((5)+(6)+(7)+(8)) 八、九九〇、〇七八円

従つて、右の各所得金額の範囲内で被告がなした本件更正処分等に何ら違法はない。

(三)  所得の計算明細について

原告に対する係争各年分の所得金額の計算明細は、次のとおりである。(以下有限会社は(有)と略す)

1 昭和四一年分

(1) 売上高 (九、四一七万三、四六二円)

<省略>

(2) 雑収入 (二、〇七〇円)

<省略>

(注) ワコー工業(株)の売上高の算定根拠は別表3のとおりである。

(2) 売上原価 (一、〇四五万一、一六五円)

イ 期首棚卸高(一九六万七、八五八円)

昭和四一年分の期末棚卸高の計算に同じ(別表2参照)

ロ 仕入高 (八四八万三、二〇七円)

<省略>

ハ 期末棚卸高 (   〇円)

注 この棚卸は、個人事業を廃止した際にワコー工業(株)へ全額販売したため〇円となる。

(四)  重加算税の賦課決定処分について

被告が、原告の係争各年分について重加算税の賦課決定処分をなした理由は、次に述べるとおりであつて右処分は適法である。

1 原告は収入の事実について隠ぺいし又は仮装したこと

(1) 原告が営むアルミ製櫛業は昭和四〇年頃よりブームにのり、売上高は飛躍的に伸び、その結果、原告の所得は急激に増大してきたので、原告はこの機会に簿外の資金を積極的に蓄積することを企図し、その手段として計画的に売上についての仮装隠ぺいを図つていた。すなわち原告は売上先であるツバキ(株)に対しては、大和工業所、サンコー製作所の架空名義の取引口座を、また日神貿易(株)に対しては大和工業所、サンコー製作所の架空名義の取引口座をそれぞれ開設するよう依頼するとともに、右取引にかかる納品書、請求書及び領収書には架空名義のゴム印(たとえば大和工業所徳田一郎等)や印鑑を使用するというもつとも悪質な不正手段により簿外売上を行つていた。

なお、ちなみに主な売上先であるツバキ(株)及び日神貿易(株)への昭和四一年分及び同四二年分の簿外売上状況を示すと次表のとおりである。

<省略>

(2) 右架空名義による簿外売上については、その大半を住友銀行奈良支店等に徳田恭一郎、太田清三等の架空名義の普通預金口座や無記名の定期預金を設定し簿外預金として秘匿していたものである。

2 原告は前記1で述べた隠ぺい又は仮装したところに基き納税申告書を提出していた。

以上述べた係争各年分における原告のなした右諸行為は、いずれも所得税を故意に免れるためにとつたもので、もつとも悪質で、かつ典型的な不正手段によつたものであつて、これ等の諸行為が国税通則法第六八条第一項にいう「隠ぺい又は仮装する行為」に当ることは明らかである。

(五)  副材料等の引継たな卸高の算定根拠について

本件引継たな卸高を算定するに当つて当初被告が採用した推計方法は、原告が本件審査請求時に、自ら推計の指針となるべき方法及び基礎資料等の数値を主張していたので(甲第三号証……裁決書の2の(1)請求人の主張参照)、これについてその内容を検討し、一部の計算誤り等を是正したうえでこれをほぼ全面的に採り入れたものである。

しかしながら、右推計方法によつた場合、副材料及び包装費(以下「副材料等」という。)が計上洩れとなつて算定される金額が過少となる反面、右推計方法において採用している工程別滞在期間方式(コロガシ計算方式)には、計算上の調整洩れがあつて算定される金額が過大となることが判明した。

そこで、被告は、右の二点について次のとおり補正したうえ、それに基づき本件引継たな卸高を主張する。

1 櫛一本当りに要する副材料等の平均単価について別表4にその計算根基を詳記したとおりである。

2 工程別滞在期間方式計算上の調整について

(1) 本件引継たな卸高の推計方法は、原告の櫛の製造過程に着目し、櫛の基礎材料である原板が各加工工程順に加工され、かつ、その間の加工費等が付加されて商品として継続出荷されるまでの過程の中の一瞬時を捕えた場合における、

イ 第一次プレス工程に滞在している仕掛品及び半製品の本数に見合う有高

ロ 第二次歯切り工程に滞在している仕掛品及び半製品の本数に見合う有高

ハ 第三次メツキ工程に滞在している仕掛品及び半製品の本数に見合う有高

ニ 第四次仕上げ工程に滞在している仕掛品、半製品及び完成品の本数に見合う有高並びに右本数に対応する副材料等の有高の合計有高

の総合計を算定して引継たな卸高を求めようとするものである。

すなわち、別表3の3のとおり原告の櫛製造に要する全工程が一か月で、その内訳が第一次工程から第四次工程までの四工程に区分され、それぞれ1-4か月であるところから、

ホ 原告の一か月平均売上本数を基に、各工程毎の仕掛品、半製品、完成品及び副材料等の各平均滞在本数を算出し、

ヘ 右算出された本数に、それぞれの加工度合いに応じて櫛一本当りの原板仕入代、プレス加工費、メツキ加工費及び副材料等の各平均単価を乗じて、各工程毎の有高を算出し、

これらを合計して引継たな卸高を算定しようとする方法である。

(2) そうすると、右の推計方法を採用するに当つて、まず、重要なことは、生産及び出荷が繰返し、かつ、継続して行われていなければならないことである。

例えば、最初に第一次工程へ投入された原板グループがプレス加工を完了して、第二次工程へ投入されているにもかかわらず、第二回目分として第一次工程へ投入されるべき原板グループが未だ投入されていなかつたとすれば、その投入されていなかつた間隙期間分に見合う本数だけ第一次工程の滞在本数が少なくなるわけである。

(3) また、現実に生産及び出荷が中断しなくても、決算手続上勘定科目によつて締切日を異にした場合には次のような跛行現象が現れる。

すなわち、原告田出十一郎は、本件事業を個人から法人組織に切替えた際における引継たな卸高計算の基礎となる原材料、各種加工費及び副材料等の仕入は、昭和四二年二月二〇日をもつて締切つたうえ、個人の事業所得の計算上必要経費に算入し、同月二一日からの仕入は、法人設立第一期の法人所得の計算上損金に計上している。

にもかかわらず、売上については、昭和四二年二月二五日をもつて締切つたうえ、個人の事業所得の計算上これを収入金に算入し、同月二六日からの売上のみを法人設立第一期の法人所得計算上益金に計上しているのである。

このような決算手続をしている場合、右跛行現象が現れるのである。

(4) 更に具体的にいえば、本来、昭和四二年二月二〇日現在の個人の「たな卸高」は、そのまま法人設立第一期へ個人からの仕入として引継されなければならないところ、実際には右個人の「たな卸高」のうち同月二一日から二五日までの間の売上分は、個人分として売上計算されている(現実に二月二一日ツバキ(株)へ四四万四、〇〇〇円、同月二三日に細川商店へ一一万八、〇〇〇円、及び同月二五日には日新商事へ二四七万二、四〇〇円の各売上が個人分として計上されている。)。

他方、右個人分の売上に対する期間的、数量的穴うめとして継続して各加工工程へ投入された原材料及び副材料等の仕入は、法人設立第一期の損金として計上されているのである。

(5) 従つて、原告が本件審査請求時に主張した推計方法によつて算出されたたな卸高は、前述のとおり締切日のズレの日数に見合う各工程毎の滞在本数分だけ重複して算出されていることになるから、当然、右重複分を控除しなければならない。

すなわち、別表3の5において、本件推計計算上、仕入の締切日昭和四二年二月二〇日と売上の締切日同月二五日の五日間(1-6か月)に見合う本数を各工程から控除した理由は、右の根拠によるものなのである。

(六)  製造工程について

原告は、被告が「櫛製造に要する全工程が一か月」であると断定したことについて、不服である旨主張しているが、被告が櫛製造に要する全工程を一か月としたのは、原告が本件審査請求時に主張してきたものを採用したものであるから、原告の右主張は失当である。

なお、右工程を一か月とすることは、本件関連刑事事件控訴審判決においても認容されているものである(乙第一号証四丁裏後から二行目ないし同九丁表三行目)。

また、原告は「副材料は既製品でなく全て注文製品を仕入れるのであるから、右工程が四分の一か月であるということは常識では考えられない。」旨主張するが、この点についても、被告がすでに述べたように(別表3の3)副材料は原板と同様、完成品を仕入れるため、副材料そのものについては原告において製造工程を要しないものである。

従つて、原告が仕入れる副材料が既製品であるか注文製品であるかは、本件推計方法上全く関係ないもので、原告の右主張もまた明らかに失当といわざるを得ない。

六  被告の主張に対する認否と反論

(一)  (1) 五の(三)の1の(3)のイの期首棚卸高はワコー工業(株)の設立第一期の荒利益率を基にして算定されたものであるが、原告は、この荒利益率を争つているのである。

なお、これの計算根拠は別表2に示されているがこれも争う。

(2) 五の(三)の1の(3)のハの期末棚卸高も同じ理由で争う。

(3) 五の(三)の2の(1)の売上高の部分については、売上先ワコー工業(株)分および合計金額を争い、別表3も全面的に争う。

(4) 五の(三)の2の(2)の売上原価および期首棚卸高を争う。

(5) 別表2の期中仕入高は、昭和四二年分(1)売上高のワコー工業(株)への売上先への金額が不当に低く認容されているためもしこの売上金額を正当に評価するならば、荒利益率が変つてくるはずである。もしこれが変れば期首棚卸高と売上原価が変るはずである。

(6) その余の売上先および仕入先およびその金額はこれを認める。

(二)  副材料等の引継棚卸高の算定根拠についてこれを全面的に争う。

(1) 別表2については1の差益率五四・六四パーセントを争い、2引継棚卸高一、七九一、四八一円を争う。同じく3昭和四一年一二月三一日現在の棚卸高の金額一、九六七、八五八円、4の昭和四一年一月一日現在の棚卸高二、四七三、〇六八円もこれを争う。

(2)(イ) 別表3については3の工程別滞在期間等の工程期間は余りにも短かすぎる。

総工程は少なくとも二月はかかるのを便宜的に一月にしているのは不当である。

(ロ) 別表3の4の櫛一本当りの構成別平均単価及びその算定根拠について次の点を争う。

まず、三和金属からの仕入金額を五光メツキの仕入数で割るのは不当である。それは第一工程を第四工程で割ることを意味する。

次の第二工程(大養金属)を第四工程(五光メツキ)で割るのも不合理である。

(ハ) 同表4<1>二の副材料等の平均単価はこれを争う。

(ニ) 同表4の<2>の外地向分の平均単価は、これを内地向分と同じく争う。

(ホ) 5の引継棚卸高については、<1><2>ともに滞在期間重複滞在期間についてこれを争い、さらに平均単価についてこれを争う。

(3) 別表4については次の点を争う。

まず1の(算式)<イ>の昭和四一年分「原板仕入代+プレス加工費」一六、七一一、八四一円を昭和四二年<ロ><ハ>の本数で割つた<1>内地向<2>外地向の金額は不当である。なぜならば、<ロ><ハ>は昭和四二年三月と四月の平均であるからもし割るならば<イ>を昭和四二年の金額にすべきである。2、3、4についても同じことが主張できる。

(4) 別表6については順号<2><4><5><6><8><12><14><18>を争う。

(5) 別表7については順号<1><2><5><6><8><12><14><18>を争う。

(三)  被告は「副材料は原板と同様完成品を仕入れるため副材料そのものについては、原告において、製造工程を要しない」というが、原告が問題にするのは、副材料の完成までの製造工程である。別注であつらえなければならないものであるからこそ、常に手持ちをしていないと品切れになるおそれがあるのである。

そのため、在庫しなければならないのであり、その分は、当然評価されるべきである。

(四)  被告は、「櫛製造に要する全工程が一か月」であると断定している。そして、その前提の下に工程を四段階に分けている(別表3の3)。しかしこの全工程を一か月とする根拠はない。被告は、前記工程を一月にした上で、例えば第四工程の副材料等の滞在期間を四分の一月とするが、訴外ワコー工業(株)の仕入れる副材料は既製品ではなく全て注文製品であるから右工程が四分の一月であるということは、常識では考えられないことである。このように、全工程を一か月にする結果、訴外ワコー工業(株)が原告より仕入れた原材料等の原価が正当に認定されないことになり、その結果、訴外ワコー工業(株)の第一期の荒利益及び事業所得の金額が過大に賦課されることになつたものである。

(1) まず、櫛製造の工程は、被告の主張によると、第一次工程原板仕入第二次工程プレス加工第三次工程メツキ工程に分けているが、第一次工程の平均単価を出すために、なぜに、三和金属からの仕入金額を五光鍍金工業からの加工仕入数量で割つているのか理解できない。

第一次工程の平均単価を出すためには、三和金属からの仕入金額を大養金属の生産本数で割らなければならない筈である。

(2) 同じく、第二工程においても大養金属からの仕入金額を大養金属の生産本数において割らねばならない筈である。これらの不合理は、棚卸し高を過少にするための苦肉の策であるといわねばならない。

(五)1  原告は請求の原因(四)においてワコー工業(株)の設立第一期(以下第一期という)における期首棚卸高の過少算定を主張するものであるが、その主張の根拠として次のことを指摘する。

ワコー工業(株)が設立された昭和四二年二月二五日に同会社は、原告から原材料等を引き継いでいるのであるが、その仕入金額が不当に低く認定されており、そのために同会社の第一期の荒利益及び事業所得の金額が過大となり第一期事業年度の法人税額が過大に賦課されたものであるが、この第一期の荒利益率を原告の各期の事業所得に適用しこれにもとづき不当に高い所得税を賦課したものである。

ワコー工業(株)の第一期の三月・四月に同会社が輸出用として日神貿易(株)に販売した売上代金合計五、六五一、二〇〇円に見合う原材料品等の原価として被告は二、四五三、九六六円だけを認定しているが、同会社が国内用として二月、三月、四月にツバキ(株)等に、販売した製品の売上代金合計二四、一四五、一四〇円に対応する原価は全然認められていない。輸出用製品は櫛だけであるが、国内用製品はこれに副材料、包装材料等を必要とし、その原価も輸出用製品よりも高く認定されるべきものである。しかるに右国内用製品の原価が認定されなかつたために、第一期の荒利益及び事業所得の金額が過大になつたのである。

すなわち、同会社は、第一期の二月、三月、四月に原価〇の製品を国内用製品として販売したために、過大な利益を得ることとなり、そのために過大な法人税額が賦課されたのである。

2  被告は同会社の第一期の二月、三月、四月の仕入金額を右国内用製品の原価とみなしているようであるが、国内用製品の製造工程は輸出用品よりも長く二月に仕入れた原材料を四月に製品として販売することは不可能である。それゆえ、同会社の第一期の二月、三月、四月の国内用製品の原材料等はすべて田出十一郎個人から原告が仕入れたものであり、その金額を原価として認定しなければならない。そして、この原価が認定されると第一期の荒利益及び事業所得の金額が減少し、同期の荒利益率を逆算して算定した原告の所得税額も減少するはずである。

七  原告の反論に対する答弁

被告が原告の個人第二期末たな卸し高(法人第一期への引継たな卸し高)を算定する過程において、第一次工程、及び、第二次工程の平均単価(櫛一本当りの原板価格及び、プレス加工費)を算出するに当り第二次工程の生産本数を採用せず、あえて、第三次工程の五光鍍金工業(株)からの納入本数を採用して除算した理由は、次に述べるとおりである。

(一)  製造業においては、経験則上、各工程ごとに不良品等ロスが発生することが明らかである。

例えば、原告がメツキ加工業者である五光鍍金工業(株)へ外注した場合、当初預託した本数の全部が加工を完了して納品されてくるとは限らず、そのうち不良品等発生ロス分を除いた本数が納入されてくるのである。

かかる場合に、各加工工程別進行状況を数量・金額の両面から記帳し受払管理して、常時個別に各段階ごとの数量、平均単価、たな卸し高を計算は握できるような体制を確立している製造業者であれば、各工程ごとの正確な単価を算出することができるのである。

(二)  しかるに、本件原告の場合は、右のような個別記帳や受払管理がほとんどなされていない。

したがつて、このような条件のもとにおいて、先行工程の平均単価を算出する場合、先行工程の投入価格を次工程の生産本数で除して平均単価を求めた方が、単に算出平均単価が高くなる(本件においては原告に有利となる。)という一面だけでなく、加工工程における不良品等ロスの発生分も吸収され、実態に即したより合理的な数値が得られる。

ちなみに、右のことを例示すると次のとおりである。

<省略>

 原告主張計算方式による第一次工程の平均単価

<イ> 9,000円÷<ロ> 902本=9.98円

 被告主張計算方式による第一次工程の平均単価

<イ> 9,000円÷<ハ> 857本=10.51円

なお、各工程ごとに加工賃が付加されるので、正確には、一本当りの単価は右算出結果よりさらに高くなる。

(三)  以上述べたとおり、被告がその主張において採用した各工程別の平均単価、及び、その算定方法は、合理的なものであり、かつ、本件においては、原告に有利な作用をしているのである。また、それから導き出された個人第二期末たな卸し高(法人第一期への引継たな卸し高)も当然合理的な数値であつて、「たな卸し高を過少にするための苦肉の策である。」という原告の主張こそ明らかに失当である。

第二八号事件

一  請求の趣旨

(一)  被告奈良税務署長が昭和四五年二月二〇日付で原告会社の自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日(以下一期という)の事業年度分所得金額五七、九四二、三二五円、法人税額二一、一二一、九〇〇円、重加算税額四、八〇二、七〇〇円および自昭和四三年二月一日至昭和四四年一月三一日(以下二期という)の事業年度分所得金額四四、九〇九、〇五八円、法人税額一六、二九八、〇〇〇円、重加算税額二、三三一、九〇〇円と更正した課税処分を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三  請求原因

(一)  原告会社は一期および二期の事業年度分の法人税の確定申告書を次のとおり記載してそれぞれ法定期限までに申告した。

一期分 所得金額 一五、二一五、〇〇九円

納付すべき税額 四、九八七、六〇〇円

二期分 所得金額 二五、三六〇、七三八円

納付すべき税額 八、五二一、四〇〇円

(二)  被告奈良税務署長は、これに対し請求の趣旨記載の課税処分をなした。

(三)  よつて原告会社は、昭和四五年三月三〇日国税不服審判所長に審査請求をしたのであるが、同所長は昭和五一年八月三一日付を以つて、原処分の一部取消(一期分所得金額五七、七九四、八六四円、法人税額一九、八八五、二一〇円、重加算税額四、七八一、四〇〇円)及び二期分につき請求棄却の裁決をし同年九月二二日原告会社に通知した。

(四)  しかしながら右課税処分には一期の期首たな卸高の過少算定、簿外給与金額の損金算入の否認、売上割戻金の売上金額からの減額否認等の違法が存する。

(五)  よつて被告に対し請求の趣旨記載のようにその取消を求めるため本訴に及ぶ。

四  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)ないし(三)は認める。

(二)同(四)、(五)は争う。

五  被告の主張

(一)  原告会社は、アルミ製櫛の製造販売業を営んでいる株式会社であるが、昭和四二年二月一日から同四三年一月三一日まで(以下、「設立第一期分」という。)及び昭和四三年二月一日から同四四年一月三一日まで(以下、「設立第二期分」という。)の各事業年度分の法人税について、別表8の「確定申告」欄記載のとおりの確定申告書を、被告奈良税務署長にそれぞれ提出した。

被告は、原告会社の提出した右確確定申告書に記載された課税標準等及び税額等が、その調査したところと異なり、また、右各申告書の提出がいずれも国税通則法第六八条第一項の規定(重加算税)に該当するものであつたので、原告会社に対し、別表8の「更正」欄に記載のとおりの更正処分(但し、設立第一期分については裁決により一部取消された後の額を示す。)および重加算税の賦課決定処分をそれぞれしたものである。

(二)  原告会社の係争各事業年分の所得金額の計算内容は、それぞれ別表9、10に記載のとおりである。従つて、右の各所得金額の範囲内で被告がなした本件更正処分等に何等違法はない。

(三)  所得計算の明細について

原告会社の係争各事業年度分の所得金額の計算における簿外取引等の明細は次のとおりである。

1 設立第一期(自昭和四二年二月一日至同四三年一月三一日事業年度)

(1) 簿外売上高 (四、五八二万四、七四〇円)

<省略>

(2) 簿外預金に対する受取利息 (三万一、二三六円)

<省略>

(3) 簿外仕入高 (二六四万八、三五三円)

<省略>

なお田出十一郎からの仕入金額の算定根拠は別表3のとおりである。

(4) 簿外雑費 (一万一、七九二円)

1 日神貿易(株)に対して支払つた輸出検査手数料 一万一、二六七円

2 ツバキ(株)に対して支払つた指定納品書代金 五二五円

(5) 支払手数料 (一四万七、四六一円)

日神貿易(株)取締役 諏訪 顕に支払つた手数料 一四七、四六一円

2 設立第二期(自昭和四三年二月一日至同四四年一月三一日事業年度)

(1) 簿外売上高 (一、九六七万九、八一五円)

<省略>

(2) 簿外預金に対する受取利息 (九〇万六、一〇一円)

<省略>

(3) 架空仕入否認額 (二九八万六、七二四円)

<省略>

(4) 簿外雑費 (一八五円)

ツバキ(株)に対して支払つた指定納品書代金 一八五円

(5) 支払手数料 (二九万八、六七〇円)

酒井 勇に支払つた手数料 二九八、六七〇円

(四)  重加算税の賦課決定処分について

被告が原告会社の係争各事業年度分について、重加算税の賦課決定処分をなした理由は、次に述べるとおりであつて、右処分は適法である。

1 原告会社は売上及び仕入についての事実を隠ぺいし又は仮装したこと

(1) 売上について

イ 原告会社は個人営業(営業主原告会社社長田出十一郎)当時より行つていた売上の仮装、隠ぺいによる不正行為を会社設立後も引続き計画的に行い、その簿外売上高は次表が示すとおりの巨額なものであつた。

<省略>

ロ すなわち、原告会社は売上先であるツバキ(株)ほか数社に対し大和工業所、ミスズ工業所等実在しない架空名義の取引口座の開設を依頼し、右売上取引は原告会社帳簿には一切記録しないいわゆる簿外売上を計画的に行つていた。また、右売上取引にかかる納品書、請求書及び領収証には架空名義のゴム印や印鑑を使用するというもつとも悪質な不正手段を講じていた。

ハ さらに架空名義による簿外売上については、住友銀行鶴橋支店に大和工業所徳田一郎、ミスズ工業所太田正二等の仮名普通預金口座を、また同銀行奈良支店に無記名定期預金を設定し簿外預金として秘匿していたものである。

(2) 仕入について

イ 設立第一期

原告会社は設立第一期において、五光鍍金工業(株)から七一万七、〇〇〇円を、またツバキ(株)から一三万九、八七二円をそれぞれ仕入れているが、右仕入代金については、原告会社の社長田出十一郎の資金で決済され、原告会社の帳簿には右取引について一切記録せず、完全な簿外仕入として処理していた。

ロ 設立第二期

原告会社は設立第二期において、アルミ材仲介業者酒井勇(通称広基)を利用して架空仕入取引を行つていた。すなわち、

A 原告会社は昭和四三年九月初めごろ、原告会社の社長田出十一郎宅において、右酒井勇に対し架空仕入取引を依頼した。その結果同年九月から同四四年四月まで継続して同人と原告会社との間に架空の仕入れ取引が行われ、その仕入取引額は四二〇万円余にのぼつており、原告会社は設立第二期中において、原告会社の帳簿に、二九八万六、七二四円の架空仕入を計上していた。

B また右架空仕入による不正取引は、原告会社と酒井勇との間に行われ、その架空仕入代金に対しては原告会社が発行する小切手を右同人が受取り、これと引きかえに、原告会社はその代金の一〇パーセントを不正取引の荷担手数料として差引いた残金を同人発行の小切手(三和銀行上町支店酒井広基名義)で受取るという悪質なものであつた。

なお原告会社は酒井勇より受取つた右小切手は、原告会社の簿外預金口座である住友銀行鶴橋支店、松田勝久名義の仮名預金に入金し秘匿していた。

2 原告会社は前記隠ぺい、又は仮装したところに基き納税申告書を提出していた。

以上述べた係争各事業年度における原告会社のなした右諸行為はいずれも法人税を故意に免がれるためにとつたものでもつとも悪質で、かつ典型的な不正手段によつたものであつて、これらの諸行為が国税通則法第六八条第一項にいう「隠ぺい、又は仮装する行為」に当ることは明らかである。

(五)  副材料等の引継たな卸高の算定根拠について

第一の五の(五)記載のとおり

六  被告の主張に対する認否と反論

(一)  五の(三)の1の(3)簿外仕入高二六四万八、三五三円を争い、仕入先田出十一郎の仕入金額一、七九一、四八一円とその算定根拠の別表3を争う。

(二)  五の(四)の1の(2)のイの田出十一郎から「原材料等棚卸の引継ぎを受け入れていながら、原告会社は、右原材料等棚卸の仕入の事実を全く会社帳簿に記帳せず、簿外処理していた」という点については争う。

(三)  その余の簿外売上高、受取利息簿外仕入高、簿外雑費、支払手数料等はこれを認める。

(四)  簿外給与金額の損金算入の否認について

原告会社は、原告会社の代表取締役田出十一郎の二男で当時、原告の会社の工場長であつた訴外田出貞夫、同三男で当時営業部長であつた訴外田出実に対して、それぞれに簿外に給与を支給していた。

右は、法人設立時、同族会社の幣害を避けるために長男訴外田出敏行のみを取締役にした関係上兄弟の間で表面上の給与に差額が生じたが、労務対策上、これを同額にすることが出来ず、右田出敏行と給与の均衡を保つため、やむなく簿外支出したものである。この金額は一期に各七一万円、二期に各一〇〇万円ずつ支給している。

ところが、被告は、これらの金額を原告会社の一期、二期の損金として算入することを否認した。これは、違法な行為である。もしも、これが損金として算入されていれば、原告会社の所得金額は減少し、同時に一期、二期の法人税額は減額されているはずである。

およそ「『定期の給与』とはあらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給される給与をいう。」(基本通達九の二の一三)。この概念からすれば簿外給与も当然に給与となる。原告会社は売上除外を行つていたので労務管理上、右両名に対し簿外で給与を支給していたのである。その売上除外が所得に加算されるかぎり当然簿外で支給された給与も原価として認容されるべきである。

右簿外給与支給の事実は、乙第一号証の参考資料として提出された国税庁「税務訴訟資料」第八六号一一一七頁によつて明らかである。

(五)  工程に関する疑問

第一の六の(四)記載のとおり

(六)  請求の原因(四)の主張の補充

第一の六の(五)記載のとおり

七  被告の再答弁

(一)  簿外給与について

原告会社が訴外田出貞夫及び同田出実に対して簿外給与を支給しており、これを否認した被告の本件各処分は違法である旨主張するが、原告会社の右主張が失当であることは、次に述べるとおり明白である。

1 一般に課税訴訟における立証責任の分配については議論の存するところで、特に必要経費の立証責任については判例・学説とも別れている(原告に責任ありとするもの-名古屋地判昭三八・二・一九行集一四・二・二六五、仙台地判昭三二・一二・一八行集八巻追録二四〇九、被告課税庁にありとするもの-徳島地判昭三三・三・二七行集九・三・四三三)。しかしながら、一般必要経費についての立証責任が被告課税庁にあると解せられるとしても、それは必要経費が、所得を得るのに通常必要とせられ、その支出することが予定されているからであつて、特別経費のごときものは、その不存在が事実上推定されるうえ、事柄の性質上その不存在の立証が極めて困難であることから、その立証責任は原告にあると一般的に解せられている(参照大阪高判昭四六・一二・二一税資六三号一二三三、東京地判昭四九・五・一〇税資七五号三六九)。

この理は、本件において原告会社がその存在を主張する簿外給与についてもまさにあてはまるものである。すなわち、簿外の給与の支払いなどというものは、そもそも税法上は違法行為であつて有り得べからざるもので、当然その不存在が推定されるものであるし、被告においてその支払いのなかつたことを立証するのは極めて困難であり、その立証責任は原告会社に存することは明白である。

立証の困難性について更に詳述すれば、租税債権債務は大量かつ反復的に形成され、また迅速な確定が期待されているところ、右確定すべき所得の調査(査察)及びそれに基づく更正・決定処分は、当初申告及びその基礎となる帳簿書類に依存せざるを得ないし、またそれを基にしているのである。そうすると、当初申告額に計上されず、また帳簿書類に記載されていない簿外の支出、特に本件簿外給与のように原告会社代表者の二男、三男という特殊な立場にある従業員に対しても会社役員と同等の給与を簿外で支払うということについては、被告は全く察知し得ないのであるから、被告において、これを主張し立証することは極めて困難な事柄といえるのである。

従つて、原告会社は簿外給与を支払つていたと主張する以上、原告がそれに副つた立証をすべきであり、しかる後、被告が右主張等について反論、認否すべきものと考えられるのである。

2 原告会社が支払つたという簿外給与は、甲第一一号証(裁決書)六丁目上から三行目ないし同七丁目下から六行目に記載されている各支出のことと思われるが、右支出は、同号証一三丁目上から二行目ないし同一七丁目上から六行目及び乙第一号証(本件関連刑事事件控訴審判決本写)一四丁表後から一行目ないし同一六丁裏九行目に記載されているとおり、原告会社の代表取締役である田出十一郎が、二男田出貞夫及び三男田出実に対し住宅取得の資金を与えたものと認められ、税法上は田出十一郎に対する貸付金として処理するのが相当である。

(二)  工程に関する釈明

1 原告会社は、被告が「櫛製造に要する全工程が一か月」であると断定したことについて、不服である旨主張しているが、被告が右工程を一か月としたのは、原告会社が本件審査請求時に主張したものを採用したものであるから、原告の右主張は失当である。

なお、右工程を一か月とすることは、本件関連刑事事件控訴審判決においても認容されているものである(乙第一号証四丁裏後から二行目ないし同九丁裏三行目)。

2 また、原告会社は「副材料は既製品でなく全て注文製品を仕入れるのであるから、右工程が四分の一か月などということはとうていありえない。」旨主張するが、この点についても、副材料は原板と同様、完成品を仕入れるため、副材料そのものについては原告において製造工程を要しないものである。

従つて、原告が仕入れる副材料が既製品であろうと注文製品であろうと本件推計方法上、全く関係ないものであるから、原告の右主張もまた明らかに失当といわざるを得ない。

(三)  各工程別の平均単価算出に当つて採用した生産本数について

第一の七記載のとおり

第三七号八号事件に関する被告の補足的主張

被告は、本件各更正処分(裁決により一部取消された後の処分)が適法であることについて、次のとおり従前の主張を補足整理するとともに、原告らの主張に理由のないこと及びその採用する証拠の措信できないことを主張する。

(一)  引継たな卸高の算定根拠とその合理性について

本訴における主たる争点は、原告田出十一郎の昭和四一年分及び同四二年分の各事業所得金額並びに原告ワコー工業(株)の法人第一期(自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日)の所得金額を算定するに当つて、計算上必要な引継たな卸高(別表11の法人第一期々首たな卸の金額)が適法に算定されているか否かである。

1  一般的なたな卸高の算定方法と本件引継たな卸高の算定方法

(1) たな卸高を算定するに当り、原告ら両名のように実額によつて算定することが困難な場合には推計によらざるを得ないところ、その推計方法については、通常期首及び期末の各たな卸高を特段の理由がない限り同額とみなす方法をとることが、一応、合理的であるとされている。

しかるところ、本件においては、審査請求時に原告らが自ら推計の指針となるべき方法及び基礎数値を主張してきたので、被告は、原告らの右主張における計算誤り等を是正したうえで、原告らの右主張に基づき本件引継たな卸高を算定したものである。

(2) 被告が、一般的に合理的であるとされている推計方法を本訴において採らなかつた理由は、単に原告らが審査請求時にそれに替わる方法を主張してきたからではなく、本件方法を採る方が、次に述べる事実を推計方法上取り入れることができ、現実に見合つたたな卸高が算定できることから、より合理的であると判断したためである。

すなわち、本件では継続した年分のたな卸を算定するのではなく、個人形態の事業から法人形態の事業へと変更した時点でのたな卸高を算定しなければならないところ、

通常、個人から法人成りする場合、個人時代の商品はできるだけ売りさばいたうえ残りを法人へ引継ぐ傾向にあり、原告田出十一郎もこれと同じようにしていること(乙第二号証・問十、乙第七号証・問六及び乙第一六号証・問九)、

個人時代の仕入金額は、昭和四二年二月二〇日をもつて締切つた金額であり、その反面、売上金額は、同月二五日をもつて締切つた金額で、したがつて、同月二一日から二五日の期間(五日間)に売上げた商品に係る分だけ引継たな卸高は、法人第一期末たな卸高より少なくなること(乙第三五号証、同三六号証)、

以上の事実が認められたので、これを本件推計のなかで考慮することとしたのである。

(3) ところで、本件引継たな卸高の推計方法は、「仕掛品、半製品等のたな卸高は一か月分の売上高に見合う分である。」という原告らの関係者田出敏行及び田出貞夫らの(以下単に「原告ら」ということもある。)供述(乙第二九号証・裁判所記録番号二四四七丁(以下、丁数のみで表わす。)裏六行目ないし二四四八丁表一〇行目、乙第二〇号証・二〇六七丁表一〇行目ないし同裏六行目及び乙第二二号証・二二〇一丁裏八行目ないし同二二〇二丁表三行目)に依拠するものであり、これは「原板の仕入から商品の発送まで約一か月を要する。」という原告らの供述(乙第二九号証・二四四六丁表三行目ないし同裏三行目、乙第二二号証・二二〇一丁裏八行目ないし同一二行目、乙第三〇号証・二〇〇一丁裏一〇行目ないし同一二行目及び乙第三二号証・問五)によつて担保されるのである。そして、被告は、右の事実を基礎として本件引継たな卸しの推計を行つたのである。

なお、原告らの供述のなかには、右事実と相違する部分もあるが、これらについては後記のとおり措信できない。

2  本件推計の相当性について

(1) 本件推計の結果と原告両名の申立(原告らは、本訴中、弁論において、一度も自己の主張する金額を明らかにしなかつたので、書証である甲第一二号証の一ないし五を参照し、原告ら申立額とした。)とを比較対照し、原告らの係争各年分(事業年分)たな卸高等を表にすると別表11のとおりとなり、更にそれを図表に表わすと別表12のとおりとなる。

別表12によれば、一見、原告ら申立額の方が各期末たな卸し高の変化が少なく推計の結果において相当性が高いように思える。しかしながら、原告ら申立額は全く根拠のない当て推量によるものであるばかりか(田出敏行証人調書)、

<1> 法人第二期と個人第一期の売上金額には約二倍の開きがあり、たな卸し高が売上金額に単純に比例すると考えた場合(特段の事情のない限り、売上高とたな卸し高とは比例関係にある。)、原告ら申立額のうち個人第一期のたな卸高は約二〇〇万円程度高過ぎること、

<2> 「法人第一期においてたな卸しをした時も四一年の期末と大差はなかつたと思います。」との田出貞夫の供述(乙第二九号証・二四五一丁表一二行目ないし同二四五二丁表五行目)及び同趣旨の田出敏行の供述(乙第一九号証・二四七一丁裏七行目ないし同二四七二丁裏七行目)に反すること、

<3> 個人時代は同業者もなかつたのに、法人成りのの一期、二期と進んでいくに従つて、同業者も出てきて競争が激しくなり、それとともに製品の種類が増えたりして在庫も増えたとの原告らの供述(乙第二号証ないし同第三一二号証のうち、営業状況に関する部分参照・特に乙第二九号証・二四五〇丁以下)を考え合せると、たな卸し高は法人成後、特に昭和四三年頃急激に増えたものと推認されるのに、それと矛盾すること、

以上の諸点に照らせば、原告ら申立額は、到底、首肯できるものでないことがわかるのである。

(2)A 原告ら申立額に比して、被告主張の各年分たな卸高は、右の<1>ないし<3>の諸事実に照らして至極自然な推移を示しており、被告主張の本件推計は、その結果において合理性を有しているといえるのである。

もちろん、被告主張のたな卸し高にしても、個人時代に遡及すればするほど増加するという傾向を示し、若干矛盾するところはあるが、これは本件推計が原告らに有利に計算されている、言い換えれば、現在の被告主張のたな卸し高でさえなお高額過ぎるからにほかならないのである。

なぜならば、仮に、本件引継たな卸し高をより少ない一五〇万円として、原告田出十一郎関係の別表2の算出方法に当てはめ、昭和四一年期末、同四〇年期末(四一年期首)たな卸し高を算出すると、それぞれ一七七万一七六六円、二〇九万八〇四六円で、その差額は三二万六二八〇円となる。そして、別表11及び12のとおり実際の被告主張による右差額は五〇万五二一〇円で、原告ら申立額による右差額は二三三万二一七四円(原告らは、この差額分に見合う二四〇万円を甲第一二号証の一のとおり、仕入金額に加算しているが、これについては、全く根拠がない。-後記3参照)であり、引継たな卸し高が少なくなればなるほど右差額が小さくなることは明らかである。

したがつて、本件引継たな卸し高をより小さくすれば、前述の若干の矛盾はほとんどなくなることとなり、係争各年分を通したたな卸し高の推移がより自然なものとなることは明らかである。

B なお、本件推計が原告らに有利になされていることを例に示すと次のとおりとなる。すなわち、本件推計のうち第一次工程のプレス加工の平均単価を算出するに当たつて、第三次工程の五光鍍金工業(株)からの納入本数を採用して除算し、結果、三・五〇円の数値を算定し(別表3の4)、実際の櫛一本当りプレス加工賃二・六〇円ないし三円(乙第二七号証二一七四丁裏一行目ないし同五行目)より高い単価を採用したごとくである。

もつとも、原告らは、被告の右方法をも不合理であると主張するが、右方法は本件審査請求時に原告ら自らが主張した方法であるうえ、原告らにとつてより有利な方法を理由を示すことなく非難する主張は、それ自体失当である。

(3)A 更に、原告ら申立額について検討する。甲第一二号証の三によれば法人第一期仕入金額は七三八〇万一七六九円となつている。しかしながら、右仕入金額は、別表11の法人第一期被告主張額及び原告田出十一郎関係の別表2の1の<2>のとおり七一三四万七八〇三円(別表2の1の<2>の記載金額七三一三万九二八四円には引継たな卸し高分の一七九万一四八一円が含まれており、それを差引くと七一三四万七八〇三円となる。)であつて、原告らもこれを認めていた(はつきりしない認否ではあるが、引継たな卸し金額以外は仕入先等すべて認めるというのであるから、当然七一三万七八〇三円については争いがないということになる。)のであるから、原告らの申立て仕入金額は、自らの主張を正当とせんがために、なんの根拠もなしに増加させたものといわざるを得ない。

B 当該仕入金額の右差額二四五万三九六六円(七三八〇万一七六九円マイナス七一三四万七八〇三円)は、被告の原処分時における引継たな卸し高の認定額と一致する(甲第三号証・八ページ参照)。このことからみると、原告らは、この金額を引継たな卸し高に加算すべきところ、誤つて仕入金額に加算したものと思われる(もつとも、被告は、本訴においては引継たな卸し高を原処分時とは変更させているのであるから、原告らがこのような原処分時のたな卸し高を問題にすること自体不可解ではある。)。そう考えると、原告ら申立額の引継たな卸し高六〇四万円は、当然右差額二四五万三九六六円を加算した八四九万三九六六円と訂正されるべきであるし、これに伴ない個人第二期々首(個人第一期々末)たな卸し高は九〇四万七〇八円、個人第一期々首たな卸し高は八九七万二八八二円となるべきものである。

また、原告らは、個人第一期仕入金額にして四〇万円を加算しているが、これについても前記A同様全く根拠のないものであり、当然期首たな卸し高に加算されるものである。したがつて、個人第一期々首たな卸し高は、右八九七万二八八二円に二四〇万円加算したところの一一三七万二八八二円と訂正されるべきものとなる。

以上の結果に基づいて原告ら申立額を訂正し、係争各年分たな卸し高等を図にすると別表12のとおりとなり、原告ら申立額は、異常なグラフを描くのである。このことからしても前記(1)及び(2)で被告が述べた本件推計の合理性はより明らかになるのである。

(4) 次に、右の点を差益率の関係で検討する。原告ら申立額の法人第一期仕入金額七三〇八万一七六九円を前記(9)で述べたところの実際の法人第一期仕入金額七一三四万七八〇三円に訂正し、その余の金額を原告ら申申立額どおりとして、当該差益率を算出すると別表11の法人第一期原告ら申立額欄の各括弧書きのように五四・二パーセントとなる。

そして、右差益率五四・二パーセントは、原処分と同じ数値であるから(甲第三号証・八丁目上から五行目)、原告らが右実際の仕入金額を援用する限りにおいては、その差益率を適用した原告田出十一郎の昭和四一年分及び同四二年分事業所得金額には争いの余地がなくなるのである。このことからしても、原告らの主張は、理由がないというべきである。

(二)  簿外給与について

原告会社は、田出貞夫、田出実名義の定期積金入金額(甲第八号証)は、右両名の兄である田出敏行の給与と均衡を保つために支給した簿外の給与である旨主張する。

原告会社の右主張が失当なことは、すでに述べたところであるが、被告は、更に、次のとおり主張を補足する。

(1)  そもそも「給与」とは、人の勤労の対価として期間に応じ、勤労の多寡に即して支払われる金銭的給付を意味し、その支払(給)方法、名義の何たるかを問わず、右の性質を具有する費用であると定義づけられるところである。

そうすると、原告会社主張のごとく兄弟であるというだけで同額の給与を支払わなければならない理由はないうえ、かりそめにも田出敏行は、田出貞夫、田出実と違つて専務取締役という責任ある地位・立場にあつたのであるから、当然、より多くの給与を受取つても自然である。そして、それが原告会社のいうところの労務対策上の当然の措置といえるのである。

すなわち、給与とは個々の仕事の内容、多寡、地位によつて、それぞれ評定し、支払われるものであるという本旨及び労務対策上の見地からすれば、田出貞夫、田出実は一般雇い人並みの給与で甘んじることは自然であるし、甘んじさせることが原告会社のいうように不合理であるとすれば、そのことをもつて、すでに給与の範ちゆうから免脱したものといえるのである。

(2)  また、原告会社は、一般従業員の手前、高額の給与を支払うことはできなかつたとも主張する。

しかしながら、係争年分当時の原告会社の雇人は女性だけの、しかも、その給与は日給制で一日八〇〇円(年間にすると賞与を含めて三〇万円程度か)であり(乙第二〇号証・二〇五七丁二行目ないし同二〇六〇丁裏四行目)、一方、田出貞夫、田出実の公表給与は、昭和四四年分で二四四万円(甲第八号証)であつて一般従業員の約八倍にも達しており、とても、一般従業員の手前公表で支給する訳にはいかなかつたという理由は出てこないのである。

したがつて、原告会社の主張は理由がなく失当である。

(三)  原告らの供述等の信憑性について

原告らは、本件推計の基礎事実に関する被告主張に対して、かなり相違する供述(別件の関連刑事事件における供述をも含める。)を行い、あるいは証書を提出して、反論しているところ、原告らの右供述等は信憑性に欠け、全く措信できないものである。

(1)  原告らは、引継たな卸し高を不当に高く認定してもらうべく、「仕掛品、半製品等たな卸高は、一か月分売上高に見合う分である。」という本件推計の基礎事実について、原板を仕入れてから商品として出荷するまで二か月はかかり、その商品の製造日数に見合う分のたな卸し高が常時必要であるとし、事実上、売上高の二か月分に見合う引継たな卸し高があつたと主張する。

しかしながら、製造日数そのものも、当初は、一か月程度であると原告らは供述していたのであり、それが別件の関連刑事事件における(以下単に「刑事」という。)昭和四六年六月一九日の公判において、田出貞夫が「昭和四一年頃は、二か月分位の製品がないと仕事が出来んのでその位待つてやつていた。」と供述し(乙第三〇号証・一九九三丁裏三行目ないし同一九九四丁表七行目)、右供述に呼応するかのように、刑事同年八月二四日の公判において、田出敏行は、刑事の前回公判(六月一九日)まで一か月であると供述(乙第三〇号証・二〇〇一丁裏一〇行目ないし同一二行目)していた製造日数について「プレス加工で一週間から二週間、歯切り加工で一週間から二週間、メツキ加工で一週間から二週間、包装等で一週間、完成まで七週間から八週間かかる。」と供述し(乙第二〇号証・二〇三六丁裏四行目ないし同二〇三七丁表八行目)、次いで、刑事昭和四七年三月二三日の公判において、プレス加工の外注先である堀田養一が「材料を受取つてから納品まで平均一五日間くらいかかる。」と供述(乙第二七号証・二一七二丁裏八行目ないし同一二行目)し、更に、刑事同年一二月二一日の公判で田出実は「現在でもそうなんですが二か月半ぐらいかかります。」と供述し(乙第三一号証・二四〇三丁表一三行目ないし同裏九行目)、逐には、刑事昭和四八年二月二二日の公判において、原告田出十一郎が「原材料仕入から販売まで大体六〇日ないし五〇日位かかる。」と供述するに及ぶのである(乙第一三号証・二五一〇丁表九行目ないし同二五一一丁表四行目)。

(2)  原告及びその関係者の供述は、右一連の供述の変遷からしてその信憑性は疑わしいところであるが、その内容も、到底信用できない。右供述では、製造日数こそ二か月程度とほぼ供述内容は一貫しているのであるが、これに伴なう、具体的数値や状況に関する供述があまりにもでたらめであるからである。すなわち、

<1> 「私は技術屋で本当に在高(たな卸)がどの位あるかということは知りません」(乙第二八号証・問八)という田出貞夫が前記(1)のような証言をしたり、

<2> 昭和四二年一月中頃の工場移転に際し「トラツク三台位の物を運びました。機械も入れてですが。」という田出貞夫の供述(乙第三〇号証・一九九三丁裏一〇行目ないし同一九九四丁表一行目)がいつの間にか機械が抜けて製品や半製品だけでトラツク三台という同人の供述(前同二〇〇二丁裏一二行目ないし同二〇〇三丁表三行目)となり、刑事昭和四七年一一月二一日の公判では、田出実が尋問もされないのにトラツク三台分には機械が含まれていないと供述する(乙第三一号証・二四〇六丁裏四行目ないし同一二行目)のである。

ちなみに、トラツク三台分のたな卸しが、売上の何か月分に相当するかを計算すると、次の算式どおり一〇か月分にもなるのである。

(算式)

イ、総重量の計算

4t積トラツク(乙第3号証・2430丁裏11行目~同2431丁6行目)×3台=12t

12t×1,000kg×1,000g=12,000,000g………総重量

ロ、櫛1本当り重量………約15g (検甲1号証より推定)

ハ、総本数………(1)÷(2)

12,000,000÷15=800,000本

ニ、1か月の平均売上本数………161,088本 (原告田出十一郎関係の別表3)

ホ、800,000÷151,088×2(注)=9,932………約10か月

(注) 外注先と自社工場とで半々のたな卸し在庫があるため

<3> 査察官による質問てん末書作成当時、生産は受注生産で、商品は右から左へとさばけていたという、原告らの供述も、「完成した商品は、明る日お得意へ発送できるということで、滞留期間はごくわずかでした。」という田出敏行の刑事昭和四六年八月二四日の公判における供述(乙第二〇号証・二〇六六丁裏三行目ないし同一〇行目)を最後に、生産は次第に見込生産であつたという供述となり、ついには「四か月にわたつて見込生産分を出荷されて参ります。」という供述(乙第三一号証・二四〇三丁表一三行目ないし同裏九行目)にまでエスカレートするに至る。

<4> 引継たな卸し自体、昭和四四年四月一〇日付け質問てん末書における供述では「手持商品も残品でしたから大したものはなく、値段にするとせいぜい五〇万円位であつた。」(乙第二号証・問十)ものが、昭和四五年三月六日付検察官に対する供述調書では、七〇〇万円に(乙第一〇号証・二六一七丁裏四行目ないし同二六一八丁表三行目)、同年七月二日付検察官に対する供述調書では六〇〇万円プラス公表分(原処分認定額二四五万三九六六円と思われる。)となり(乙第一九号証・二四七三丁裏五行目以降)、刑事昭和四七年五月一〇日付公判調書では「仕掛品は認定された日神貿易分の二八五万円の五倍(一四二五万円)ということになります」(乙第二二号証・二一九〇丁裏一三行目ないし同二一九一丁表八行目)に増え、原告田出十一郎に至つては、刑事昭和四八年二月二二日付公判において「大体二〇〇〇万か二一〇〇万か二一五〇万円くらいはあつたと思いますけど」と供述するのである(乙第一三号証・二五一二丁表一〇行目ないし同裏七行目)。

ちなみに、右二〇〇〇万円が売上高の何か月分に相当するかを計算すると、次の算式どおり約七・五か月分となる。

(算式) 原告田出十一郎関係の別表3より

<1> 櫛1本当りたな卸品の平均価格

内地向分

(原板価格)

第一次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円……A

( 〃 )(プレス加工賃)

第二次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円=12.35円……B

( 〃 )( 〃 )

第三次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円=12.35円……C

( 〃 )( 〃 )(メツキ加工賃)(副材料等)

第四次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円+13.85円+13.29円=39.49円…D

平均(A+B+C+D)÷4=18.26円

外地向分

(原板価格)

第一次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円……A′

( 〃 )(プレス加工賃)

第二次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円=12.35円……B′

( 〃 )( 〃 )

第三次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円=12.35円……C′

( 〃 )( 〃 )(メツキ加工賃)(副材料等)

第四次工程中に滞在するたな卸品単価 8.85円+3.50円+8円+1.31円=22.66円……D′

平均(A′+B′+C′+D′)÷4=14.0525円

<2> 内地向分と外地向分を平均する。

(内地向分売上本数) (外地向分売上本数) (1か月平均売上本数)

(97,083本×18.26円+64,000本×14.0525円)÷161,088本=(1,772,735.58+899,360)÷161,088=16.59円

<3> たな卸品総本数

たな卸高

20,000,000円÷16.59円=1,205,545

<4> 売上高相当分の計算

1,205,545円÷161,088=7.433……約7.5か月分

以上みたところからして、原告らの供述は到底信用に値しない。

(3)  次に、原告らは、本訴においても甲第四号証、甲第七号証の一、二を提出して、自己の主張を正当付けようとする。

甲第四号証は、仕入帳によつて分析して作成したということであるが、プレン加工の外注先である大養金属が何時、何を、どれだけ加工(本証ではシャーリング加工)したかは、大養金属内部の資料でしか判らないものであり、とても仕入帳によつて作成できるものではない。

また、仮りに右資料が現存していてそれに基づいて作成したのだとしても、その内容は、全く措信できないものでる。なぜならば、甲第四号証の二枚目下段の記載によれば、大養金属の原告会社に対する毎月末の預り手持ち原板は平均一四五枚であるということであるが、これは「預つている材料は大板にして二~三〇枚である。」という、大養金属の堀田養一の供述(乙第二七号証・二一七六丁裏九行目ないし同一一行目)と食い違いを見せているうえ同人が「アルミ板が常時何枚あるかというようなことは、帳簿には載つていない。」と供述している(前同二一八一丁表八行目ないし同一一行目)ことにも反するからである。

結局、甲第四号証は、右供述中の「材料を受取つてから納品まで平均一五日間くらい。」という、原告らの主張に合わせた供述部分を立証せんがため、都合よく作成したものと思料されるのである。

なお、甲第七号証の一、二については、その内容自体全くもつて意味不明である。

以上の次第で、原告らの本件引継たな卸し高に関する供述等は、少しでも右たな卸し高を多く認めてもらおうとするがあまり、「仕掛品、半製品等たな卸高は一か月分の売上高に見合う分である。」という本位をそのままに、徒らに、製造日数を伸ばしたり、たな卸し高の推量や金額だけを増やすなどして、おのずから措信できないものにしたといえるのである。

そしてまた、簿外給与に関する原告らの供述等も同様である。

第四証拠

本件記録中の書証目録および証人等目録記載のとおり。

理由

一  七号八号事件の請求原因(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第一ないし三号証、第六号証、第七号証の一、二、第八ないし一一号証、乙第一ないし三七号証を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告田出は、一五才の頃から大阪市内の小間物商方に奉公に出て、数年間勤めた後、独立して同市内において小間物商を営んだが、戦後奈良に転居し、昭和三九年頃からアルミ製櫛の製造販売業を始め、同四二年一月二六日本店を同市南京終町二四九番地の三におき、各種製髪用品、服飾雑貨の製造販売、輸出入業務並びにこれらに付帯する業務を営むことを目的とする資本の額五〇〇万円の原告会社を設立して、その代表取締役となり、引続き、アルミ製櫛を製造販売していたものであるが、昭和四一年一月以降架空取引名義を使用して売上および仕入の各一部を除外し、その売上除外金を架空名義の普通預金又は定期預金として留保する不正な方法により所得を隠匿したため、同四八年一〇月二三日原告田出に対する所得税法違反、法人税法違反、原告会社に対する法人税法違反の各罪により、奈良地方裁判所において原告田出に対し懲役刑(執行猶予)および罰金刑、原告会社に対し罰金刑に処する各有罪判決をうけ、控訴したが、同四九年一一月二日大阪高等裁判所においても原告田出の罰金刑が減軽されただけでいずれも同様の有罪判決をうけ、更に上告したが、それぞれ上告棄却の判決をうけ確定したものである。

(二)  原告田出の昭和四二年分総所得について、同原告は、正確な帳簿書類を備付けていなかつたので、その個人事業を引継いで設立された原告会社の一期における製品、半製品等の引継たな卸高を資料として、売上原価並びに差益率を算出し、これにより原告田出の同年分および同四一年分の事業所得を推計する外はない。

(1)  前掲甲第三号証によれば、昭和四二年三月分の櫛の売上本数一五万六九一八本(内地向九万二九一八本、外地向六万四〇〇〇本)、同年四月分売上本数一六万五二五六本(内地向一〇万一二五六本、外地向六万四〇〇〇本)であるから、内地向一か月平均売上本数九万七〇八七本外地向同六万四〇〇〇本を算出し、これを基本として、前掲二冒頭掲記の証拠を総合し、被告の別表4の算式により副材料等の平均単価を算出すると、内地向分につき一三・二九円、外地向分につき一・三一円をうることができ、他にこれを覆えすような証拠は存しない。

(2)  前掲乙第二二、二九、三〇号証によれば、原板の仕入から商品の発送まで平均一か月を要すると認められるところ、櫛の製造工程は、大別して四次に分かれており、まず内地向分の加工単価は、一次工程原板仕入代八・八五円、二次工程プレス加工代三・五〇円、三次工程メツキ加工代一三・八五円、四次工程副材料等一三・二九円であり、かつ、各滞在期間は、第一次一か月、第二次四分の三か月、第三次四分の二か月、第四次四分の一か月とするのが相当でこれにより原価が構成されるものとすると、一次工程は九万七〇八七本に右単価を、二次工程は同本数に右単価並びに〇・七五を、三次工程は同本数に右単価並びに〇・二五をそれぞれ乗じ(いずれも円以下切捨、以下同じ)、これらを合計すると、二一〇万八九七〇円となる。

(3)  次に、外地向分につき、メツキ加工の平均単価は、内地向分より少く九円と認められ、かつ副材料等は前記額により前同様の計算式により計算すると、原価の合計は、一〇四万三三六〇円となり、これと(2)の金額との合計は、三一五万二三三〇円となるけれども、成立に争いのない乙第三五、三六号証によれば、原告田出の個人事業時代の仕入額は、昭和四二年二月二〇日をもつて締切つた金額である反面、売上額は、同月二五日をもつて締切つたものであり、前掲乙第二〇、二二号証によれば仕掛品、半製品等のたな卸高は、平均一か月分の売上高に見合う分であつたと認められるから、同月二一日から二五日まで五日間の売上金額分だけ前記合計額から控除した残額が、個人から法人への引継たな卸高に相当することとなり、その金額は、二二七万一六二八円と認めることができる。

原告田出は、原告会社の設立一期の二月ないし四月にツバキ(株)に国内用として販売した製品の売上額に対応する原価が、右引継たな卸高に全然算入されていない旨を主張するけれども、原告会社の前示売上、仕入額以外に売上、仕入があつたことを認めるような証拠がないので右主張は採用できない。

(4)  昭和四二年分売上高については、原告会社に対する前記引継たな卸高(原告会社に対する売上高)を除き、その余の被告主張事実は、当事者間に争いがないので、これに前記認定にかかる引継たな卸高を加算すると、原告田出の同年分売上高は、二一三六万二六四一円となる。右売上高から前記引継たな卸高(原告会社に対する売上高であり、四二年期末たな卸高はこれにより〇円となる)を控除した残額一九〇九万一〇一三円に、前掲甲第三、六、一一号証、乙第一号証別表2により最低限認められる差益率(荒利益率)五四・三パーセントを乗じて得られた額一〇三六万六四二〇円を右売上高から控除した額一〇九九万六二二一円が売上原価に該当するので、これら前記のように期末たな卸高を〇円としたうえ当事者間に争いがない仕入高八四八万三三〇七円を控除した額二五一万二九一四円が、四二年分期首(四一年分期末)たな卸高と認めるのが相当である。前掲甲第三、六号証によれば、一般経費中租税公課を除くその余の科目並びに給与所得、譲渡損(譲渡所得)、雑所得について被告主張事実を認めることができ、右租税公課額については原告において明らかに争わないから自白したものとみなすべく、前示売上高から、期首たな卸高に仕入金額を加え、期末たな卸高を控除した売上原価、一般、および特別経費を差引いた事業所得金額六五四万〇七三六円に給与所得、雑所得金額を加えこれから譲渡損額を控除した残額八九二万五二七四円が昭和四二年分総所得金額と認める。

(三)  次に原告田出の昭和四一年分総所得について検討するに、同年分売上高、仕入高については当事者間に争いがなく、右売上高から、これに前示荒利益率を乗じた額五一一三万六一八九円を差引いた残額四三〇三万七二七三円が売上原価に当り、これに前示期末たな卸高二五一万二九一四円を加え仕入高を控除した額三三三万八三一四円が同年分期首たな卸高に該当することとなる。

ところで、前掲甲第三、六号証によれば、被告主張の一般および特別経費の科目および雑収入、専従者控除額、譲渡損(譲渡所得)、雑所得額を認めることができ、売上金額から前示売上原価、一般並びに特別経費を控除し、雑収入を加え、専従者控除額および譲渡損額を控除し、雑所得を加えた額三八四八万八八五六円をもつて同原告の昭和四一年分総所得金額と認めるのが相当である。

三  前掲二の冒頭掲記の証拠を総合すると、原告会社は、前記のとおりアルミ製櫛の製造販売業を営むもので、原告田出が代表取締役として会社の業務全般を統括掌理し、長男敏行は取締役として、二男貞夫は工場長、三男実は営業部長としてそれぞれ父に協力していたが、原告田出の個人営業当時より、取引又は収支の実態を正確に記載した帳簿書類を備付けず、かつ売上先であるツバキ(株)ほか数社に対し大和工業所、ミスズ工業所等実在しない架空名義の取引先の開設を依頼し、その売上は原告会社帳簿に記載しないで銀行の仮名預金口座に簿外預金として秘匿隠ぺいする等の不正行為を会社設立後も引続き計画的に行いその簿外売上高は巨額にのぱつていたことが認められ、他に右認定を覆えすような証拠は存しない。

もつとも原告会社は、前記田出貞夫、田出実に対しそれぞれ簿外給与を支給していたのにその損金算入を否認するのは不当であると主張し、証人田出敏行、同今井馨の各証言中には同旨供述部分も存するけれども、前掲他の証拠と比較してたやすく措信し難く、却つて前掲二冒頭掲記の証拠によれば、原告会社が積立てた預金は右両名の宅地購入のための手付金にあてられ、その購入後は、住宅ローンの返済に充てられたものであつて、右両名の当時の給与は、原告会社主張の簿外給与を加えなくても民間給与水準を可成り上回り、一般従業員と比較してはるかに高額であり、又原告会社においても右預金についてこれを給与として扱い所得税の源泉徴収、住民税の申告等をしていなかつた事実が認められるから、被告が損金算入を否認したのも止むをえないといわなけれがならない。

(一)  原告会社の設立一期分の所得について

被告の別表9の項目中、簿外売上高、簿外預金に対する受取利息、原告田出の分を除く簿外仕入高、簿外雑費および支払手数料に関する被告の主張事実は、原告会社の認めるところであり、原告田出からの簿外仕入高は前記認定のとおり二二七万一六二八円であつて、その余の項目については、前掲甲第六、一一号証乙第一号証により被告主張事実が認められこれに反する証拠はない。

そうすると原告会社の設立一期分所得は、別表9の申告所得金額に、簿外売上高、簿外預金に対する受取利息額、貸倒引当金繰入額の否認額を加え、これから簿外仕入高三一二万八五〇〇円および同別表の簿外雑費額、車両売却損額、支払手数料額を控除した残額五七九七万七二〇二円と認めるのが相当である。

(二)  原告会社の二期分所得について

被告の別表10の項目中、簿外売上高、簿外預金に対する受取利息、架空仕入否認額、支払手数料、簿外雑費に関する被告主張事実は、原告会社の認めるとこであり、その余の項目については、前掲甲第六、一一号証乙第一号証により被告主張事実が認められ他にこれに反する証拠がない。

そこで、原告会社の二期分所得は、別表10の申告所得金額に簿外売上高、簿外預金に対する受取利息額、架空仕入否認額、貸倒引当金繰入額の否認額、価格変動準備金繰入額の否認額、海外取引等がある場合の割増償却額の否認額、海外市場開拓準備金繰入額の否認額を加え、これから支払手数料額、未納事業税認容額、車両売却損額、貸倒引当金戻入認容額、簿外雑費額を控除した残額四四九〇万九〇五八円と認めるのが相当である。

四  そうすると、原告らに対し、いずれも前記認定の所得額の範囲でなされた被告の本件各更正処分(裁決後のもの)および重加算税賦課処分はすべて適法であり、その取消を求める本訴各請求はいずれも失当として棄却すべきである。

五  よつて訴訟費用の負担につき民訴法八九条九三条を適用して主文のとおりとする。

(裁判長裁判官 仲江利政 裁判官広岡保、同三代川俊一郎は転任のため署名捺印できない。裁判長裁判官 仲江利政)

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3 ワコー工業(株)への売上金額(引継たな卸高)1,791,481円の算定根拠

<省略>

別表4 櫛1本当りの副材料等の平均単価算定根拠

<省略>

別表5 昭和41年分仕入明細

<省略>

別表6

昭和42年分所得金額計算書

<省略>

別表7

昭和42年分所得金額計算書

<省略>

別表8

<省略>

別表9

設立第一期分の所得金額の計算

<省略>

別表10

設立第2期分の所得金額の計算

<省略>

別表11

<省略>

<省略>

(注) 基印を付けた金額は本件の争点。 ※印を付けた金額は左記推計に基づいて算出される金額。 ?印を付けた金額は根拠不明

別表12

<省略>

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